知財と意味的価値

知的財産一般

モノからコトへ

前回のコラムでも記載したように、近年、高性能・多機能の商品、即ち「機能的価値」が高い商品が必ずしも売れるわけではなくなってきており、「意味的価値(情緒的価値)」に消費者のし好が移っていると言われています。

「モノからコトへ」といったキーワードもよく使われており、つまりは、消費が商品自体の価値よりも顧客が使用する際の経験価値(顧客経験価値)にシフトしてきているというわけです。


よく引き合いに出されるのが、アップル社(米国)のiPhone、ダイソン社(英国)のサイクロン掃除機です。

私はiPhoneユーザではないのでよく知りませんが、私の使用している日本製のアンドロイド端末も機能や品質では負けていない若しくは勝っていると思っています。

しかしながら、iPhoneは世界シェア№1です。iPhone独自の形や色、手触り感、操作性(操作感)などにより、ユーザに「可愛らしい」、「使い易い」といった高い経験的価値を与えることに成功しているからということができます。更に、アップル社のブランドイメージ(ブランド価値)が相乗効果を引き起こしているとも言えます。

ダイソン社の製品についても同様です。サイクロン掃除機だけでなく、最近では扇風機やドライヤーも送り出しています。ダイソン社の製品は、それ程安くないにも関わらず、売れています。もちろん、掃除機の吸引力や羽がない扇風機など、高機能・新機能を備えており、それらが評価されているとも言えます。しかしながら、それに加えて、デザイン性の良さは半端なく、そのカッコよさも相乗効果を引き起こし、消費者を引き付けているのだと思います。

ダイソン社では、「デザインエンジニア」と呼ばれる、デザインと技術との両方において洗練された人材を重要視しているようです。

但し、iPhoneやサイクロン掃除機などの人気の高さの理由は、ファッション性だけではありません。当然ながら、ファッション性がいくら高くても、性能や機能があまりにも低ければ、これほどまでの人気にはなり得ません。ファッション性が着目され得る程度の機能的価値を備えていることも重要なファクタとなります。

つまり、「意味的価値」は、機能・品質(「機能的価値」)とファッション性・ユーザビリティとの融合により創造される価値であるといえます。

では、ファッション性やユーザビリティの根源となる知的財産にはどのようなものがあるでしょうか?

ファッション性と知財

ファッション性に影響を与えるものとしては、まず、見た目があります。即ち、物品における形状、模様、色彩などです。物品だけでなく、GUIなどに使われる、グラフィカルに表示されるものの形状、模様、色彩なども同様です。

触感もファッション性に影響を及ぼすかもしれません。触感は、物品の表面形態や柔らかさ(可撓性)・硬さ(剛性)により実現されます。

また、生じる匂いや音によりファッション性が上がる可能性もあります。

ユーザビリティと知財

ユーザビリティに影響を与えるものとしては、物品やグラフィカル表示の形状や動きがあります。グラフィカル表示の動きに関連して、コンピュータやデバイスにおけるユーザインタフェースも同様です。ユーザインタフェースは、ユーザとモノとのインタフェース全般と捉えることもできます。

これらは、基本的には、人間の創造的活動により生み出されるものであって産業上利用できるもの、若しくは、商品又は役務を表示するものであるため、「知的財産」です。

したがって、ファッション性・ユーザビリティの根源となるこのような知的財産を保護することで、「意味的価値」を独占し、他社の製品・サービスと差別化することができます。この点、「機能的価値」と変わりません。

物品の形状、模様、色彩、動き、グラフィカルに表示されるものの形状、模様、色彩、動きは、「意匠権」により保護可能です。

また、技術的思想としての側面から見た物品や画像の動き、形状などは、「発明」又は「考案」として「特許権」又は「実用新案権」で保護可能です。

「特許権」によれば、触感を生み出す表面形態(コーティング方法や成分など)や材質、匂い発生メカニズムなども保護することもできます。

更に、ファッション性に繋がる音や色彩が他の商品との識別性を有している場合には、「商標」として「商標権」で保護できる可能性もあります。

デザインエンジニアリングの重要性

一方で、「意味的価値」は、「機能的価値」と異なり、顧客の主観によって決められるものであり、数字で表現し難いものです。

そのため、商品・サービスが完成した後に、後付けで、どこに「意味的価値」があるのかを特定することは非常に困難となります。「意味的価値」が見出され得る要素がそもそも備わっていない可能性もあります。

従って、設計段階から、自社製品・サービスの「意味的価値」をどこに置くのか、その「意味的価値」が見出されるために「機能的価値」がどこまで必要なのかを十分に検討し、意図的に、「意味的価値」を創出し得る要素を造り込むことが望まれます。ダイソン社が重要視している「デザインエンジニア」はこのような能力を持った人でしょう。

更に言えば、自社で独占すべき「機能的価値」及び「意味的価値」が何なのか、それらを独占するために保護すべき知的財産が何なのかまで判断することが必要となります。

これが、前々回に記載させて頂いた「付加価値の創造のための有用な知財活動」の一つであり、我々弁理士は、設計段階から関わらせて頂き、このような有用な知財活動の支援をさせて頂けるよう、日々精進しております。

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